診療・ケア 皮膚科

診療・ケア

Dermatology.皮膚科

ペットにこんな症状はありませんか?

注意するべき症状

  • 皮膚を痒がる
  • 耳を痒がる/痛がる
  • ブツブツ/かさぶたがある
  • フケが多い
外科・診療中の猫

考えられる疾患

表在性膿皮症

表在性膿皮症は犬でよくみられる皮膚の細菌感染症で、猫での発症は比較的まれです。感染症といっても、多くの場合は皮膚表面にもともと存在する常在菌のバランスが崩れたり、皮膚のバリア機能が低下していたりして起こります。
皮膚に膿疱(膿が溜まった膨らみ)、丘疹(赤いブツブツ)やかさぶた、表皮小環(輪っか状のフケやかさぶたに囲まれた赤い斑点)、虫食い状の脱毛と痒みが認められます。
診断は特徴的な症状に加え、皮膚科検査で細菌の増殖と白血球の浸潤を確認して行います。
治療は抗生剤、消毒剤、シャンプーなどを使用して原因となる菌を減らしますが、皮膚常在菌のバランスが崩れてしまう背景疾患の管理を行わないと再発を繰り返してしまいます。
膿皮症を短期間で繰り返す場合には、①アレルギー性皮膚炎や汗っかきなど皮膚の問題、②内臓疾患や内分泌疾患など健康状態の問題、③生活環境やスキンケアの問題などが隠れています。抗生剤の頻繫な使用は、抗生剤が効きにくい「多剤耐性菌」の出現に繋がります。膿皮症を起こす背景を探り、個々の状態にあった治療やスキンケアを行うことで再発を減らすことを目指しています。

犬アトピー性皮膚炎

犬アトピー性皮膚炎は慢性再発性の痒みを伴う皮膚疾患です。目や口のまわり、耳、足先、脇やお腹などに左右対称性に症状が現れます。3歳以下での発症が多く、年齢を重ねるごとに重症化する傾向があります。
遺伝的素因があることが知られており、アレルギー体質、皮膚バリア機能の低下、生活環境などさまざまな要因が絡みあって発症すると考えられています。
診断は特徴的な症状と、皮膚感染症や食物アレルギーなど他の痒みが出る疾患の除外、アレルギー検査の結果などから総合的に判断します。現在のところ完治は難しく継続的なケアが必要で、痒みとうまくつきあっていけることを目標に治療を行います。アレルゲンの回避、皮膚常在菌のバランス正常化、痒みや炎症の管理、皮膚バリア機能の回復、ストレスの軽減など様々な方向からアプローチします。
このうち体質改善を目指すのがアレルゲン特異的減感作療法という免疫療法で、当院ではハウスダストマイト(チリダニ)アレルギーをもつ犬で実施可能です。
その他、薬物療法、スキンケア、食事やサプリメントなどの栄養管理、環境対策などを組み合わせて個々の状態にあわせたケアを提案しています。

外耳炎

外耳炎は耳の入り口から鼓膜手前までの耳道(外耳道)に炎症が起きた状態のことをいいます。耳が赤く腫れる、耳垢が増える、耳だれが出る、臭いがするなどの症状がみられます。
痒みや痛みを感じると頭を振る・傾ける、耳を掻く・こすりつける、耳付近を触られるのを嫌がるなどの行動がみられます。炎症を抑えるための内服薬や点耳薬、耳道洗浄などで治療します。ただしこうした治療で一旦はよくなるものの治りきらず再発を繰り返すケースが多く認められます。
再発を繰り返すうちに耳の構造に変化がおきてこれまでの治療で症状が改善しない、中耳炎や内耳炎に進行して難聴や斜頸などの神経症状を起こすことがあります。ときには外科処置が必要になることもあります。外耳炎は複数の要因が関係して発症するといわれており、繰り返す場合には根本原因である「主因」の検討と管理が重要です。例えばミミダニ寄生、アレルギー性皮膚炎、脂漏症、内分泌疾患などが外耳炎の主因となります。猫では鼓膜の奥にある中耳領域に異常が起きて症状を示していることもあります。
耳科診療では症状や経過を詳しく伺ったうえで、ビデオオトスコープを用いた耳道の観察、耳垢検査、血液検査、頭部X線検査などを行います。中耳や内耳の異常が疑われる場合にはCTやMRI検査が必要となり、実施可能な近隣施設をご紹介しています。診断後は、通常の内服薬や点耳薬などを用いた治療と並行して、外耳炎を引き起こしている根本原因はもちろん、外耳炎を繰り返しやすくしたり悪化させたりしている他の要因にも目を向けた治療計画を提案しています。

猫アトピー性皮膚症候群

猫が皮膚を痒がるときにみられる症状は4つに分けられます。
    ①頭部や頚部に掻き壊しができる「頭頸部掻爬痕」
    ②耳、背部、腰部に粟粒くらいの丘疹(ブツブツ)ができる「粟粒性皮膚炎」
    ③腹部や後ろ足などを舐めて毛がちぎれる「外傷性脱毛」
    ④口や口唇、腹部や大腿部に赤い結節・局面(盛り上がり)、潰瘍ができる「好酸球性肉芽腫群」

これらが認められる場合には「皮膚炎」を疑いますが、まずは似た症状を示す他の疾患の可能性はないか考えます。細菌・真菌・寄生虫などの皮膚感染症、免疫介在性疾患や腫瘍性疾患、膀胱炎・便秘・関節痛など身体的要因、ストレスや不安などの精神的要因、甲状腺疾患に伴う過剰グルーミングなどです。
やはり「皮膚炎」の可能性が高いと考えられる場合、次にノミや食物に対するアレルギーの可能性を検討します。2021年ノミや食物アレルゲンの関与しない痒みを生じる皮膚炎を「猫アトピー性皮膚症候群」と呼ぶことになりました。
猫アトピー性皮膚症候群についてはまだわかっていないことも多く、ヒトや犬のアトピー性皮膚炎にあたる疾患なのかもはっきりしていません。少なくとも若齢から慢性再発性の痒みが認められ、上にあげたような他の疾患の可能性が低い場合には猫アトピー性皮膚症候群を疑う必要があります。
完治は難しく症状を緩和してつきあっていく疾患です。治療は痒みや炎症を抑える内服薬中心に行いますが、生活環境の変更やストレスや不安を和らげるような内服薬とサプリメントが必要になることもあります。
猫はとても繊細でアレルギー療法食を食べない、薬を飲めない、ストレスに伴う自傷行為で症状が悪化するなど診断や治療に苦慮することも多いです。ご家族にもご意見をいただきながら治療計画を練るよう心がけています。

治療の流れ

  • ➀ ご来院・問診・身体検査

    皮膚科診療ではご家族から得られる情報がとくに重要です。まずどのような症状がいつどこにできてどのように変化したのかをうかがいます。症状を繰り返している場合にはこれまで行った治療内容とその効果、発症時期や季節による変化などを詳しく確認します。

    皮膚以外の疾患が関係していることがあるため、体調や持病についてもうかがいます。生活環境、スキンケアやイヤーケア、食事内容などについてもお聞きします。皮膚科診療ではうかがいたい内容をまとめた事前問診票を用意しています。当日までにご記入の上、診療には普段の様子がわかるご家族がご来院ください。
    これらの聞き取りが終わった後に身体検査を行い、どのような病変がどのように分布しているか、皮膚以外の異常がないかについても詳しく確認します。

  • ➁ 検査の実施

    問診や身体検査で得られた情報から疑われる疾患の検証のために検査を行います。
    まず一般的に行うのが皮膚科学的検査で、①寄生虫、細菌、真菌など皮膚感染症に関わる検査、②毛の構造や毛周期の異常をしらべる検査、③皮膚表面に存在する細胞や浸潤している細胞の観察などを行います。細菌や真菌の感染症の場合、菌の種類の特定や適切な薬剤の選択のために培養同定薬剤感受性試験を行うことがあります。

    犬アトピー性皮膚炎や食物アレルギーが疑われる場合には、アレルギーに関わる血液検査やアレルギーを起こしにくい食事を一定期間与える除去食試験を行います。皮膚の症状から全身性疾患が疑われる場合には、血液検査、尿検査、ホルモン検査、レントゲン検査や超音波検査などが必要となることもあります。一般的な検査では診断が難しい場合には、皮膚病変の一部を採取して病理組織検査を行うこともあります。
    例えば免疫介在性疾患・遺伝性疾患・全身性疾患・腫瘍などが疑われる場合、標準的な治療で改善に乏しい場合、脱毛症などで皮膚の状態をより詳しく知りたい場合などです。

  • ➂ 治療のご提案と評価

    問診、皮膚症状、各種検査結果から総合的に診断を行い、治療にすすみます。ただし疾患によっては最終的に診断を確定するまでに数か月~1年近く時間を要することもあります。
    皮膚や耳の疾患は多くの場合様々な要因が重なって発症しているため、各要因に対する治療を行い、治療後の再評価を経て診断を絞り込んでいく必要があるためです。またアレルギー性皮膚炎の診断では季節性の有無が重要で、ときに1年間経過を追って最終的に判断することもあります。

    皮膚や耳の治療は内服薬、注射薬、外用薬、シャンプー療法、保湿剤などのスキンケア、食事療法(療法食やサプリメント)、生活環境の整備など多岐に渡ります。
    多くの場合まずはすみやかに症状を緩和させるために内服薬や外用薬を使用します。さらにシャンプーや保湿剤などのスキンケア、食事療法などを組み合わせていくことで、長期的に負担が少ない方法で健康的な状態を維持することを目指します。治療計画は、疑われる疾患と重症度、各治療のメリットやデメリット、動物の性格、ご家庭のライフスタイル、治療コストなどを考慮したうえで、ご家族とも相談しながら決定することを心掛けております。

皮膚科からのご案内

皮膚や耳のトラブルを繰り返している場合には皮膚科診療の受診をご検討ください。難治性の皮膚疾患や皮膚以外の隠れた病気のサインである可能性があります。

症状が繰り返される場合にはその場限りの治療ではなく、原因を特定して長期的な治療計画を建てることが重要です。また、難治性の皮膚疾患では長期にわたる薬物療法が必要となることが多いですが、薬だけに頼らない多角的なアプローチを行うことで必要最低限の投薬で症状を緩和できるよう目指しています。

こうした皮膚科治療の実現のためにはご家族のお力添えが必要です。ご家族が動物に代わって症状をご説明くださり、ご家庭でスキンケアや栄養管理を実践していただくことではじめて治療が成り立ちます。各ご家庭で可能なことやご不安なことなどはぜひ診察時にお聞かせください。動物にとってもご家族にとっても快適な生活を送ることができるよう一緒に考えさせていただけたら幸いです。