食事が原因となる皮膚・消化器疾患について徹底解説 市販食と家庭調理食のメリット・デメリットも!
コラム当院に来院される飼い主様からも多くの関心が寄せられる「ペットの食事」にまつわるお話について、深掘りします。食べ物が原因で皮膚に痒みが出る場合もあれば、下痢・嘔吐などの消化器症状が出る場合も。ここではそれぞれのケースの症状から治療について、詳しく解説致します。
~皮膚編~
食事が原因となる皮膚疾患に「食物アレルギー性皮膚炎」があります。
【症状】
季節に関係なく、一年中頑固な痒みが現れるのが特徴です。犬・猫ともに若い時だけでなくどんな年齢でも発症します。
●犬でよく見られる症状
初期には目、口周り、耳、足先、背部、鼠径部、肛門周囲の痒みや赤み、ブツブツが現れます。軽症では痒みだけが見られることもあります。痒みや炎症が続くと脱毛や皮膚の黒ずみ、苔癬化(たいせんか:皮膚が厚く硬くなる)が見られます。
●猫でよく見られる症状
顔、耳、頸部、腹部、足などにおける痒み、左右対称の脱毛、赤み、かさぶた、ブツブツが現れます。


除去食試験:現在与えている食事やおやつを中止し、これまで与えたことのないタンパク質で作られた食事を1~2カ月間与えることによって皮膚の症状が改善するかを判断する試験。
【治療】
犬や猫の食物アレルギー性皮膚炎の治療法には、いくつかのアプローチがあります。以下は一般的な治療法です。
- 食事療法
アレルギーの原因となる食物を含まない食事に切り替えます。新奇タンパク食(※1)や、加水分解食(※2)など、療法食が推奨されます。
※1:これまでに食べたことのないタンパク質で作られた食事
※2:タンパク質を加水分解によりアレルギー反応しにくいサイズにまで小さくした消化性の高い食事 - 薬物療法
痒みや炎症を和らげるために抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、免疫抑制剤などを使用することがあります。 - 皮膚のケア
適切なシャンプー:皮膚の保湿やバリア機能を保つために、低刺激性のシャンプーなどを使用します。
保湿:皮膚の乾燥を防ぐために、専用の保湿剤を使うことがあります。
アレルギー性皮膚炎を調べるにはどのような検査があるの?
食物や環境アレルゲンに対する免疫反応の有無を調べる血液検査があります。『リンパ球反応検査』では食物アレルゲンについて、『アレルゲン特異的IgE検査』では環境および食物アレルゲンについて調べることができます。これらはあくまで診断の補助として行う検査です。検査結果を踏まえて食事を変更した時に症状の改善が見られるかどうかが鍵となります。
~消化器編~
食事が原因となる消化器疾患に「食事反応性腸症」があります。食物アレルギーが原因になることもありますが実際は少なく、食事不耐性や腸内細菌叢の乱れなども関与していると言われています。
【症状】
- 犬でよく見られる症状
頻回の排便、しぶり、下痢、嘔吐など - 猫でよく見られる症状
下痢、嘔吐、血便、体重減少など
※3週間以上の長期的な軟便、下痢などの消化器症状が続いている場合は早急に病院にご相談ください。

【治療】
犬や猫の食事反応性腸症では、食事の管理を中心に、補助療法、生活環境の改善を組み合わせたアプローチを行います。
- 食事療法
食事反応性腸症の診断では「リンパ球反応検査」「アレルゲン特異的IgE検査」を使用することはありません。
低アレルゲン食や高消化性の療法食へ変更し、症状の改善があるかを確認します。 - サプリメントの使用
腸内の健康をサポートするために、善玉菌や腸内環境を改善するサプリメントや消化を助けるための消化酵素サプリメントを使用することがあります。 - 生活環境の改善
ストレスが腸内の症状を悪化させることがあるため、ストレスを減らす方法を考慮して実践します。(適度な運動や安心して過ごせる生活環境など)
《豆知識》消化器は体内にあるけれど体外!?
胃や腸など食べ物を分解し、血液中に栄養を吸収する器官をまとめて消化器といいます。この消化器は、食べ物が口から入り、消化・吸収を経て体の外へ排出されるまでの一本の管と考えることができます。皮膚と同じように身体の外から取り込まれた物質と直接接するため、消化器も〈体外〉と考えられているのです。
獣医師からお伝えしたいこと
同じ〈体外〉である皮膚と消化器で、食べ物が原因の症状が認められますが、治療法は少し異なります。 動物病院で遭遇する皮膚疾患の1〜6%が食物アレルギーと診断されており、あまり多くはありません。
また、アレルギー検査は症状が出ていない健康な犬においても血液検査で陽性と出ることがあり、結果は100%正確ではありません。「アレルギー検査で牛肉が陽性だったから、牛肉アレルギー」ではなく、除去食試験と負荷試験を行って痒みが改善し、ぶり返したことを確認してはじめて食物アレルギーと診断されます。検査結果を鵜呑みにして食べられるものを狭めるのではなく、今後どのような食物を食べても大丈夫なのか、どのような食物を食べたら痒みが見られるのかを一緒に見つけていきましょう。おやつも、症状が出ない食物のタンパク質でできているものや野菜であれば与えることができます。
愛犬や愛猫が症状の出る食べ物を誤って口にしてしまう事故を起こさないためにも、ご家庭内での拾い食いや盗み食いには注意していただくなど、ご家族全員の協力が不可欠です。ご不明点や気になる点があればいつでも病院にご相談ください。
どちらが良いの? 市販食と家庭調理食
アレルギー対応の食事が手に入らない場合は、ご家庭での手作り食が選択肢の一つとなります。ここでは愛犬や愛猫のために食事を手作りする際の注意点をお伝えします。
■市販食と家庭調理食のメリット・デメリット

市販食
メリット:栄養のバランスが良い、手間がかからない
デメリット:すぐに手に入りづらい
家庭調理食(手作り食)
メリット:飼い主様自ら調理するので原材料が明確。
デメリット:栄養バランスを調整できず、よく食べても栄養失調になるケースも
ご自宅で食品の栄養素や摂取カロリーを調べる場合、文部科学省の食品成分データベースで検索することができます。

■手作り食を試したい場合の注意点
5大栄養素(ビタミン・ミネラル・脂質・タンパク質・炭水化物)はすべて不足しないようにしましょう。

にんじん、ほうれん草、納豆、しじみなど
※サプリメントで調整可能

小魚、海苔、干しエビなど
※サプリメントで調整可能

肉、魚、植物油、チーズなど
※動物性の食材から摂るほか、アマニ油などを少量トッピングしても問題ありませんが、摂りすぎに注意が必要。

肉、魚、卵、えんどうまめ、サツマイモなど。
※動物性と植物性の2種類を組み合わせを推奨(肉と米やイモなど)

米、うどん、そば、バナナなど
水分もしっかり摂取しましょう。また、犬や猫は咀嚼することがとても苦手です。フードプロセッサーを使用するか、みじん切りにし、煮崩れするまで加熱するようにしましょう。
まとめ
現在、さまざまな食物アレルギー性皮膚炎・食物反応性腸症に対する食事が開発されているため、愛犬・愛猫の食事の楽しみを奪うことなく治療に取り組むことが可能です。食事選びに困ってしまう、手作り食を加えたいなど食事に関する相談や希望がある場合は、栄養管理について専門知識を持つ『栄養マイスター』の愛玩動物看護師が当院に在籍しておりますので、お気軽にご相談ください。
痒みや赤み、下痢や嘔吐など、ご自宅で比較的見つけやすい症状に関する疾患を一部ではありますが、今回ご紹介させて頂きました。飼い主様の気付きが早期診断・治療に繋がることもあるので、少しでも気になる事やいつもと違う様子がある場合は病院までご相談ください。