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知っておきたい 目の病気とケア

おねだりでウルウルと見つめてきたり、興味の対象をジーッと追いかけたりするペットの大きな瞳は、とてもキュートですよね。そんな愛犬・愛猫の大切な瞳を守るため、目の病気やご自宅でできる正しいケアの方法をご紹介します。

 

目のしくみ

  • 目の構造はカメラに例えられます。光はカメラのレンズ部分である角膜や水晶体を通り、フィルムである網膜へと届けられます。網膜に入ってきた光は電気信号に変換され、コードである視神経を通って脳へと伝えられます。
  • 角膜と水晶体の間の前眼房という部分には眼房水という水が入っていて、この水の圧力により目の張りや大きさが保たれます。

犬・猫によく見られる眼科疾患

1. 白内障

水晶体の一部、もしくは全部が白く濁ってくる病気です。進行すると視力が低下し、失明に至ります。また合併症として、炎症や緑内障が起こる場合もあります。

【原因】
●外傷
●老化
●中毒
●遺伝
●糖尿病
●網膜疾患の合併症
柴犬、トイ・プードル、アメリカン・コッカースパニエルなどは遺伝的にかかりやすく、若い犬にも見られます。

【症状】
●黒目の白濁
●眩しそうにする
●目が見えない

【治療方法】
病気の進行度合いより4段階に分類され、各段階で治療法が異なります。
※本誌症例表入る
白内障の手術は、濁った水晶体を超音波で砕いて吸引し、人工の眼内レンズを挿入する方法が一般的です。手術を希望される場合は、専門病院をご紹介致します。

2. 緑内障

通常、眼房水は生産と排出を繰り返していますが、緑内障は眼房水の排出が悪いため眼圧が上昇し発生します。進行すると網膜や視神経が障害されて失明に至ります。

【原因】
●遺伝による眼房水の流出路異常
●ぶどう膜炎・水晶体の脱臼・外傷・腫瘍などの発生による眼房水の排出不良
柴犬、アメリカン・コッカースパニエルなどに多く見られます。

【症状】
●白目の充血
●眼球の肥大
●目が見えない
●痛みによる元気消失

【治療方法】
「内科的治療法」および「外科的治療法」がありますが、動物の状態や症状の程度、飼い主様の意向などにより治療方法が異なります。
●内科的治療法…眼圧を下げるために内用薬や点眼薬を投与します。
●外科的治療法…レーザー手術(※1)や緑内障バルブ手術(※2)などを用いて眼圧を下げます。
※1:眼房水を抑えることを目的に行う手術
※2:眼房水を排出することを目的に行う手術

▶義眼手術を実施した例
視覚を失っており回復が見込めない場合は、シリコンボールを挿入する義眼手術を行います。これにより、眼球拡張による角膜潰瘍になることを予防することができます。

3. 角膜潰瘍

角膜潰瘍は目に傷がついた状態のことです。炎症や細菌感染が合わさって起こると重症化します。3層(上皮・実質・内皮)から成る角膜のどの層にまで傷が生じているか、その傷の深さにより重症度と治療法が異なります。短頭種は目が出ているので、特に注意が必要です。

【原因】
●外傷
●異物による刺激
●まぶたやまつ毛の異常
●涙液の減少
●感染症
猫風邪にかかると目ヤニなどの症状を伴う結膜炎を発症することが多々あり、角膜潰瘍の原因にもなります。

【症状】
●目ヤニ
●目のショボつき
●白目の充血
●黒目の白濁

【治療方法】
●傷が浅い場合には点眼治療が主体となります。
●浅い傷でもなかなか治らない場合や傷が深い場合には外科手術が適用されます。
●傷がさらに深くなり角膜に穴が開いた状態(角膜穿孔)になると眼球摘出をしなければいけないケースもあります。
●角膜潰瘍の際には目をこすって悪化することがあるため、エリザベスカラーの着用をおすすめします。

4.結膜炎
結膜(まぶたの内側と眼球の表面を覆う薄い粘膜)が炎症を起こす病気です。結膜は目を保護し、潤滑させる役割を持っていますが、炎症が生じると赤みや腫れ、目ヤニ、涙の増加などの症状が現れます。

【原因】
●細菌、ウイルス、真菌等の感染
●アレルギーや刺激物
●外傷
●乾燥(ドライアイ)
●糖尿病、高血圧、自己免疫疾患など
猫では特に、猫カリシウイルスや猫ヘルペスウイルスが原因となることが多いです。

【症状】
●目の赤み、痒み、腫れ
●目ヤニ、涙目
●光(明るい場所)を嫌がる

【治療方法】
原因により治療法が異なります。
●感染性、アレルギー性の場合:点眼薬や軟膏、内服薬などを使用します。
●刺激物や異物による場合:生理食塩水で目を洗浄したり、異物を除去した後に点眼薬を使用します。必要に応じて、目を保護するためのエリザベスカラーを使います。
●全身性疾患による場合:原因となる基礎疾患の治療を行います。

5.網膜剥離(もうまくはくり)

眼球後面の内側に接している網膜という薄い膜が剥がれる疾患です。網膜は光を感じて視覚信号を脳に伝える重要な役割を担っているため、剥離が起こると視力低下や失明の原因となります。早急な診断と治療が重要となります。

【原因】
●頭部への打撃や外傷
●糖尿病、腎疾患、心疾患、甲状腺疾患などによる高血圧
●細菌、ウイルスの感染
●眼内や眼窩の腫瘍
パグ、シー・ズー、トイ・プードルなど一部の犬種で、遺伝的に網膜剥離を起こしやすい場合があります。

【症状】
●視力の急激な低下、失明
●瞳孔の異常(光に対する反応が鈍くなる)
●目の変色
●眼球突出
●目の痛みや不快感

【治療方法】
●高血圧や炎症、感染症などの原因に応じた薬を使用して症状を緩和します。
●硝子体手術(※1)やレーザー手術(※2)などを行う場合もあります。
※1:網膜を元の位置に戻すために行われる手術
※2:レーザーを用いて網膜を固定する方法
●全身性疾患による場合:原因となる基礎疾患の治療を行います。

6.乾性角結膜炎(ドライアイ)

涙の分泌が不足するか、涙の質が悪くなって目が乾燥する疾患を指します。一般的に「ドライアイ」と呼ばれる状態です。涙液は目の健康を維持するために重要であり、目を潤すだけでなく、栄養を供給し、感染を防ぐ役割を果たします。ドライアイになるとこれらの機能が低下するため、さまざまな目の問題を引き起こす可能性があります。

【原因】
●免疫介在性疾患(猫では稀)
●先天性低形成
●薬物の副作用
●手術や外傷による涙腺の損傷
●ウイルス感染による涙腺の損傷
 犬:ヘルペスウイルスやジステンパーウイルスなど
 猫:ヘルペスウイルスなど
●老化
●乾燥した環境
●神経症状(瞬きする神経が障害された場合)

【症状】
●涙の不足による目の乾燥、充血
●目ヤニ
●まぶたの炎症や腫れ
●目の痒み、痛み、不快感
●角膜の変色や濁り
●視力の低下
●第三眼瞼(瞬膜)の突出

【治療方法】
●目の潤いを保つための人工涙液や、涙腺の炎症を軽減し涙の産生を増やす効果のある点眼薬を使用します。
●ドライアイが原因で二次的な感染が起こった場合、抗生物質の点眼薬や内服薬を処方することがあります。
●深刻な場合、涙腺の移植手術が検討されることがあります。

ドライアイを予防するには?(後半「ご自宅でできるケア」内の記事にリンク)

7.涙管閉塞

涙を目から鼻へ排出する涙管(涙道)が詰まる状態を指します。涙管閉塞があると、涙が目から適切に排出されず、目の周りに溢れ出ることになります。

【原因】
●先天的異常(涙管の構造的な異常や形成不全)
●細菌やウイルスの感染
●外傷による涙管の損傷
●涙管周囲の腫瘍による涙管の圧迫

【症状】
●涙目(流涙症)
●目ヤニ
●目の周りの皮膚炎

【治療方法】
●感染性の場合は、抗生物質の点眼薬や内服薬を処方します。
●軽度の場合は、涙管に生理食塩水を注入して詰まりを解消します。
●重度の場合、涙管の開放や新しい涙管の作成を目的とした手術を行うことがあります。

8.ブドウ膜炎

眼球の前方のブドウ膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)に炎症が起こる疾患です。目の痛みや視力の低下を引き起こし、適切な治療が行われないと視力を失うこともあるので、早期発見と早期治療が重要となります。

【原因】
●細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの感染
猫の場合、猫免疫不全ウイルス(FIV)や猫白血病ウイルス(FeLV)、トキソプラズマなど
●自己免疫疾患:
●外傷
●眼内や眼周囲の腫瘍
●糖尿病や高血圧などの全身性疾患

【症状】
●白目部分の赤み:
●目の痛み
●涙目
●視力の低下
●明るい場所や光を嫌がる
●瞳孔の縮小

【治療方法】
●感染が原因の場合、抗生物質の点眼薬や内服薬を使用します。
●炎症を抑えるために抗炎症薬(点眼薬、注射、内服薬)を使用します。
●自己免疫疾患が原因の場合、免疫抑制剤を使用します。
●腫瘍や他の構造的な問題が原因の場合、手術が必要になることがあります。

9.眼瞼内反症

まぶたが内側に巻き込まれてしまい、まつ毛やまぶたの皮膚が眼球に直接触れる状態で、「逆さまつ毛」と呼ばれることもあります。眼球に物理的な刺激を与え、痛みや炎症、さらには感染症や視力障害を引き起こすことがあります。

【原因】
●先天性(遺伝的な要因)
特に犬ではシー・ズー、パグ、ペキニーズ、ブルドッグ、ラブラドール・レトリーバーなどでよく見られます。
●まぶたや顔の外傷
●慢性的な眼瞼炎や結膜炎によるまぶたの構造の変化
●加齢による皮膚や筋肉の弛緩

【症状】
●目の赤み、痛み、痒み
●涙目
●目ヤニ
●角膜潰瘍
●視力の低下

【治療方法】
●軽度の場合、抗炎症薬や人工涙液の点眼薬を使用して症状を緩和します。
●一時的な対策として、逆さまつ毛を抜くことがあります。ただし、これは再発の可能性があります。
●逆さまつ毛の毛根を電気で焼灼して再発を予防します。
●重度の場合、まぶたの構造を修正してまつ毛が正常な方向に生えるようにする手術が必要となります。

10.瞬膜腺脱出(チェリーアイ)

第三眼瞼腺(瞬膜腺)が突出して見える状態を指します。第三眼瞼(瞬膜)が赤く腫れて眼球の一部に突き出し、まるでサクランボのように見えるため、「チェリーアイ」と呼ばれます。特に若い犬に多く見られ、猫では稀な疾患です。

【原因】
●遺伝的要因:
特に、ブルドッグ、ビーグル、コッカースパニエル、シー・ズー、ボストンテリアなどの犬種に好発するとされています。
●瞬膜腺を眼球に固定する結合組織の弱さ

【症状】
●目の内側(鼻側)に赤く腫れた塊がある
●涙目
●目ヤニ
●目の違和感や痛み:
●結膜炎

【治療法】
主に外科的治療となります。
●突出した瞬膜腺を元の位置に戻し、固定する手術を行います。これにより、再発を防ぐことができます。
●手術前および手術後に、炎症や感染を抑えるための点眼薬を使用します。

こんな症状は見られませんか?愛犬・愛猫の状態を今すぐチェック!
少しでもおかしいなと思われたら、お早めにご来院ください。

目が見えていない場合
散歩中に物にぶつかる
散歩で歩きたがらない
飼い主の足元にずっとついて歩く
ボールを投げても遊ばない
階段につまずく、踏み外す
寝ていることが多くなった
噛みつくことが多くなった

目が痛い場合
目をショボつく
目を閉じる
涙の量が増える
目をこする

眼科ではどんな検査をするのでしょう?

当院で行っている眼科検査についてご紹介します。

  1. シルマー涙液検査
    まぶたの縁に試験紙を挟み、涙の量を計ることにより、ドライアイを調べます。
  2. 眼圧検査
    眼房水の圧力を測定します。緑内障の発見に欠かせない検査です。
    ※江東総合病院・市川総合病院では、点眼麻酔を必要としないタイプの眼圧計を導入しています。
  3. スリットランプ検査
    眼に細いスリット光を当て、目の表面や内部の様子を調べます。
  4. フルオレセイン染色検査
    角膜の表面に染色液を垂らすことで角膜の傷がないかを調べます。また同時に、涙が目から鼻に抜けるかもチェックします。
  5. 眼底検査
    眼底鏡や眼底カメラを用いて、目の奥の血管・網膜・視神経の状態を調べます。
  6. 超音波検査
    超音波を用いて、眼球内部を観察することで、眼球の形態的異常を確認します。

愛犬・愛猫の目の健康を守るためにご自宅でできるケア

▶顔周りに触られることに慣らす練習をしましょう!

眼科の検査では顔周りに触れるため、噛みつきなどの攻撃行動が激しいペットには検査を行えない場合があります。いざという時に備えて、日頃から顔周りに触られることに慣らす練習をしておくことが大切です。
Step1:目・鼻・口の周りを触った後、おやつをあげて褒めます。
Step2:Step1がスムーズにできるようになったら、手でまぶたを触って瞬きをさせたり、まぶたをめくったりして白目の状態を確認してみます。この際も、少し触ってはおやつをあげることを繰り返し、徐々に慣らしていきましょう。

▶温め&まばたきマッサージのやり方

  1. 電子レンジで加温可能な市販のジェルや小豆の入ったアイパックを38度くらいに温め、約5分間まぶたの上に乗せます。
  2.  温めた後、まばたきマッサージを1セット(20~30回)実施します。まばたきマッサージの際は、上下まぶたのマイボーム腺がしっかり接するように、飼い主様の手で優しく目の開閉を行いましょう。

まつげの内側に整列している小さな点がマイボーム腺の開口部です。温めると油分の分泌が良くなります。

★温めは1日1~2回、まばたきマッサージは1日3セットを目標に実施しましょう。継続的に実施することが望ましいので、無理せず少しずつ慣らしましょう。

▶ドライアイを予防するには?

涙は、粘液・水成分・油成分が混ざり合っており、目の表面の潤い保持・栄養供給・汚れや病原体除去などの働きを担っています。ドライアイとは、涙の量が少なくなったり、涙の質が悪くなって目の表面が乾いたりしてしまう状態のこと。悪化すると角膜潰瘍や角膜炎を引き起こすこともあるので注意が必要です。ドライアイを予防するには、涙の分泌を良くし、質を高めることが有効です。
また、生活環境のちょっとした改善でドライアイを予防したり症状を軽減したりすることができます。
●加湿:室内の湿度を上げることで、目の乾燥を防ぐことができます。
●風防止:風が直接当たらないようにするための工夫が必要です。例えば、車の窓を閉める、扇風機やエアコンの風が直接当たらないようにするなど。
●栄養補助食品の利用:オメガ-3脂肪酸を含むサプリメントが涙の質の改善に役立つことがあります。

▶涙やけの対策は?

目ヤニなどを放置すると目の周りが常に濡れ、涙の跡が赤黒く汚れることがあります。この状態は「涙やけ」と呼ばれ、放置していると目の病気に繋がる可能性もあるため、きちんと対処してあげる必要があります。

【対策】
1. 濡らしたコットンなどでこまめに涙を拭きとりましょう。
2. 目の周りの被毛をカットし、清潔に保ちましょう。
3. 食物アレルギーが起因している場合もあるので、フードの切り替えも検討してみましょう。
目の病気が原因で涙の量が増えていることもあるので、涙やけがひどい場合は一度受診してください。

▶食物アレルギーが心配な場合は…

当院には犬と猫の食事、栄養管理について専門知識を持つ『栄養マイスター』の愛玩動物看護師が在籍しています。愛犬・愛猫の食事選び、与え方などについて、ご家族様のライフスタイルも考慮した上でアドバイスを提供し、サポートさせていただきます。愛犬・愛猫の食事について少しでも不明な点がありましたら、遠慮なく当院スタッフにご相談ください。

まとめ

目の病気の症状は、充血や黒目の白濁などの目に見えるものから、気付きにくいものまでさまざまです。飼い主様が症状に気づいて来院した時には、治療が困難になるほど病状が進行してしまっているケースも多々あります。今回ご紹介したケアを日々意識して行うことは、眼科疾患の早期発見に大変有効ですので、ぜひご家庭で実践してみてください。
また、「黒目が白濁しているのは糖尿病による白内障だった」「よくぶつかるのは神経疾患による視力低下が原因だった」など、目の症状が眼科疾患以外の病気によって引き起こされている場合も少なくありません。年に一度は健康診断を受診し、全身の健康状態を確認するようにしましょう!

▶年1回の健康診断には、ペットケアクラブがおすすめです!