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ペットの防災 虎の巻 ―いざという時のために必要な備えと心構えを徹底解説

世界一の災害大国といわれる日本。地震はもとより、近年は台風や集中豪雨の恐ろしさも身近なものとして実感するようになりました。災害はいつ発生するかわかりません。いざという時に混乱をなるべく回避し、動物が苦手な人ともトラブルなく過ごすためには、日頃からの備えや意識が大切です。ここでは飼い主様とペットが災害時にスムーズに行動できるための防災対策を解説します。この機会に、備蓄品や日頃のしつけ・避難計画を見直してみましょう。

【虎の巻 その一】事前準備編 ペットのための防災用品“

 ライフラインの寸断や緊急避難などに備え、必要な物資の備蓄をしましょう。避難所では、動物に対する備えは基本的に飼い主の責任になります。また、救援物資が届くまでには時間がかかります。少なくとも、5日分の用意はしておきましょう。

  • 持ち出し品には優先順位をつけ、優先度が高いものはすぐに持ち出せるように保管しておきましょう。

  • 重いものや大きなものは避難の妨げになるため、一旦避難した後、安全を確認してから持ち出すようにしましょう。

優先順位1 命や健康に関わるもの

  • 療法食・薬
    ゆとりを持って備えておきましょう。担当医に、どのくらいの期間であれば薬や療法食がなくても大丈夫か確認しておきましょう。

  • フード・水(最低5日分)
    犬や猫が1日に必要とする飲み水は、体重1㎏につき50ml程度とされています。人間用とは別に用意しましょう。

  • リード・胴輪・予備の首輪
    避難所でキャリーバッグの扉を開けた際に脱走しないよう、猫もリードの着用が必要です。

  • トイレ用品
    ペットシーツや砂など、使い慣れたものを用意しておきましょう。汚物を入れるゴミ袋や消臭剤も必要です。

  • 食器
    コンパクトになる折り畳み式の食器を、フード用・水用の2つ用意しておきましょう。

  • クレート・キャリーバッグ・ケージ
    避難所で重ねて置かれることを考慮すると、プラスチック製のしっかりとした作りのクレートが良いでしょう。日頃からペットが嫌がらずに入るよう訓練をしておくことが重要です。

    クレート・トレーニングの方法(犬) 
    クレート・トレーニングの方法(猫) 

優先順位2 飼い主やペットの情報

  • 飼い主の連絡先
    飼い主の連絡先以外に、緊急の連絡先・ペットの預け先の情報も記載しておきましょう。

  • ペットの写真
    印刷物とともに携帯にも画像を保存しておきましょう。動物と一緒に写った写真があると、迷子時に飼い主を特定するのに役立ちます。

  • ワクチン接種歴・既往歴・検査結果・かかりつけ動物病院の情報
    ペットの健康状態を記載し、診療時や一時預かり時などに、第三者にペットの健康状態をスムーズに伝達できるようにしておきましょう。

当院ペットケアクラブ会員様にお渡しする「ペット健康手帳」には、これらの情報を記載するページがあります。日頃から記入し、災害時にはすぐに持ち出せるようにしておきましょう。
ペットケアクラブのご案内はこちら

優先順位3 日用品

  • タオル・ブラシ

  • ウエットタオルや清浄綿
    目や耳の掃除など多用途に利用可能です。

  • ビニール袋・新聞紙
    排泄物の処理など多用途に利用可能です。

  • お気に入りのおもちゃ
    使い慣れたものや、ペット自身の匂いが付いているものがあると、安心でき、避難所でのストレスを和らげることができます。

  • 頭数分の洗濯ネット
    多頭飼育の場合、特に猫は一つのキャリーバッグに入れるとケンカする場合があります。1頭ずつ洗濯ネットに入れてからキャリーバッグに入れると、複数頭でも一度に連れ出すことができます。

  • ガムテープ・油性ペン
    ケージの補修や動物情報の掲示物作成など、多用途に使用可能です。

マイクロチップの挿入もお忘れなく!

はぐれてしまった時に備えて、迷子札の装着は必須です。過去の災害では、迷子の間に痩せて首輪が取れてしまった事例も起きているので、マイクロチップの挿入も必ずしておきましょう。

犬・猫へのマイクロチップの装着と登録が義務化されました

令和4年6月1日から、ブリーダーやペットショップ等で販売される犬や猫について、マイクロチップの装着が義務化されています。6月1日以降にブリーダーやペットショップが取得し、販売した犬や猫には、すでにマイクロチップが装着されています。購入した飼い主の方は、国のシステムにおいて、所有者情報をご自身の情報へ変更登録する義務があります。
一般のご家族様ですでに同居されている犬や猫、また保護犬・猫や譲渡などでお迎えされた場合などは、マイクロチップの装着は任意(努力義務)となります。ただし、装着した場合においては、国のシステムへの所有者情報の登録が義務となります。

マイクロチップ情報の登録の窓口

環境大臣指定登録機関 公益社団法人日本獣医師会
登録サイト:犬と猫のマイクロチップ情報登録

 世界に一つだけの番号が登録されている直径2㎜・全長12㎜程度の円筒状の電子標識器具です。背中側の首筋などに注入します。注入時の痛みはあまりなく、麻酔・鎮静の必要はありません。番号を保健所などに配備してあるリーダーで読み取り、データベースに登録された情報と照会することで飼い主を検索することができます。また万が一、ペットの所有権で揉めるような事態に陥った場合も、マイクロチップの登録内容によって、自身のペットだと証明することができます。

◎引っ越しなどで住所や電話番号などが変わった際は、登録内容を更新し、データベースの情報は必ず最新にしておきましょう!

迷子になったワンちゃんが… マイクロチップのおかげで無事家族と再会できたケースをご紹介
(2013年12月16日収容、同日返還のワンちゃんのできごとです)

12月半ばのことです。もうすぐ6歳になるラブラドール・レトリーバーの女の子が、庭でつながれているリードを擦り切って、外に逃げ出してしまいました。飼い主家族みんなで探していたところ、数百メートル離れた住宅街で、警察によって保護されました。このワンちゃんには、マイクロチップが埋め込まれていたので、動物愛護センターがマイクロチップ・リーダーで確認するとマイクロチップ番号が読み取れました。この番号を(公社)日本獣医師会が管理するデータベースで照合すると、飼い主名・住所等が判明し無事、飼い主のもとに帰ることができました。

出典元:動物ID普及推進会議(AIPO)ポスターより抜粋

公益社団法人日本獣医師会
動物ID普及推進会議(AIPO)
AIPOとは、Animal ID Promotion Organization (動物ID普及推進会議)の略称で、マイクロチップによる犬、猫などの動物個体識別の普及推進を行っている組織です。(環境省推進システムとは別になります。)

メリット
・AIPOのデータベースは臨床獣医師及び動物愛護関係行政機関などによる情報検索が可能です。
  環境省データベース(法定登録)は行政機関のみが情報検索可能。
デメリット
・新規登録・変更は国のシステムとは別になり、有料です。
・オンライン申請のみ

【虎の巻 その二】しつけ・トレーニング編 ‟犬も猫もクレート・トレーニングが必要!“

 過去の震災では、ペットを連れて避難したかったのにペットが家の中で隠れたり逃げ回ったりして、一緒の避難を断念したケースが多くありました。このような事態を避けるため、「クレート=何かあったら逃げ込む安全な場所」とペットに認識させ、いざという時に捕まえやすくしておきましょう。

クレート・トレーニング ~犬の場合~

愛犬が抵抗感なくクレートに入れるよう、「クレート=良い所」と教えてあげましょう!

用意するもの

  • プラスチック製の頑丈なクレート。成犬の場合、中で犬が方向転換でき、自然な形で立ったり横たわったりできる大きさのクレートを選びましょう。

  • タオル・毛布・冷感マットなど、季節に応じた敷物


STEP1 クレートに慣らす

クレート内を快適にする
中にタオルなどを敷いて、安心して休める場所にします。犬が入ったはずみで閉まらないよう、扉を固定しておきましょう。

クレートの中で良い経験をさせる
クレートの中で毎日のごはんや知育玩具(おやつを詰めたコングなど)を与え、「クレートの中にいると良いことがある」ことを経験させましょう。自ら進んで入れるようになってきたら③に進みます。

❸ クレートの中にいることを褒める
犬がクレートの中に自ら進んで入ったら、中にいる犬に入口からフードやおやつを与え続け、中に留まれるようにしていきましょう。褒め言葉をかけることも忘れずに!

STEP2 扉の開閉に慣らす

❹ 扉をそっと閉める
犬がごはんや知育玩具に夢中になっている間に扉を閉めます。閉める時間は、数秒間から始め、徐々に長くしていきましょう。すぐに出たがるようならSTEP②に戻り、再度時間をかけてクレートに慣らしましょう。
出たがる犬を押し戻すような行動はNG ですよ。クレートが嫌いになってしまいます!

❺ 静かにしている時に扉を開ける
「吠えたら出してくれた」と犬が誤解しないように、静かにしている時に出られることを繰り返し教えましょう。

❻ 合図で行動できたらごほうびを与える
犬がクレートに入る直前に「ハウス」と声をかけ、「ハウス=クレートに入る合図」として教えていきます。犬が合図の後にクレートに入ったら、すぐにフードやおやつなどのごほうびをあげ、よく褒めてあげましょう!

ここでは一般的な方法をご紹介しましたが、犬の性格によって効果的な方法はさまざまです。トレーニングがうまくいかない場合は、犬に苦手意識が芽生える前に、早めにスタッフにご相談ください。

当院では犬のしつけ教室を開催しています。日頃から愛犬とのコミュニケーションにお悩みの飼い主様、愛犬との絆をより深めたい飼い主様には特におすすめです。
しつけ教室のご案内はこちら

クレート・トレーニング ~猫の場合~

猫が自分でクレートに出入りできる環境を整えてあげましょう!

用意するもの

  • 上部が開口する、プラスチック製の頑丈なクレート

  • 猫が安心する匂い(猫自身や家族の匂い)が付いた毛布やベッド

  • クレートをすっぽり覆えるサイズのバスタオル


クレート内を快適にする
ペットシーツを底にテープで固定し、その上に猫が安心する匂いが付いた毛布やベッドを置きます。

扉を開けておく
猫が好きな時に自由に出入りできるよう、扉は開け放しておきます。猫が入ったはずみでガシャンと閉まらないよう、扉を固定しておきましょう。

最適な置き場所を探す
クレートを、猫が普段よく居る場所や人が通らない静かな場所に置きっ放しにし、自ら入るのを待ちます。

中でごごはんやおやつを与える
毎日のごはんやおやつをクレートの中で与え、クレートへの警戒心を和らげます。慣れてきたら、食事の間は扉を閉めてみましょう。

慣れたら短距離の移動から
猫が好んで出入りするようになったら、短距離の移動に挑戦です。移動時には必ずクレート全体をバスタオルで覆い、猫にとってストレスとなる視覚的な刺激を遮断しましょう。

クレート内をさらに寛げる場所にするために…
猫のストレスを緩和するフェロモン剤「フェリウェイ」を、クレート内や中に入れる毛布などにスプレーしてみましょう。
※スプレー後3 0分は猫を近づけないようにしてください。

苅谷動物病院グループの全ての病院では、猫待合、診察室、猫ケージ等院内でも使用している場所があります。
また、病院で販売もしていますのでご興味ある方はスタッフまでお声がけください。

胴輪を付ける練習もしておきましょう

避難所では脱走防止のため猫も首輪とリードを付けることが推奨されていますが、パニックに陥った猫が全力疾走で逃げた場合、リードや首輪が周囲のものに引っかかり、首に強い衝撃が加わったり、首輪が抜けてしまったりする恐れがあります。このような事態を避けるため、当院では胴輪にリードを付けることをおすすめしています。ただし、はじめから胴輪を受け入れられる猫は稀なので、日頃から着用する練習をしておく必要があるでしょう。

練習のポイント

胴輪選び
洋服と一体化しているようなデザインの胴輪が望ましいです。サイズがしっかり合ったものを選びましょう。

はじめは背中に乗せることから
おやつをあげながら、胴輪を猫の背中に乗せてみましょう。受け入れられるようであれば、胴輪にゆっくり両前肢を通してみましょう。

徐々に装着時間を延ばす
猫がパニックになったり嫌がったりするようなら無理強いは禁物です。一日数分から始めて、気長に練習を続けましょう。着用した状態でリラックスできる(排泄や食事ができる)ようになったら、リードを付ける練習も行ってみましょう。

焦らず気長に。猫のペースに合わせてやってみてくださいね!

【虎の巻 その三】避難シミュレーション編 ‟避難場所・避難経路の確認を!“

緊急的に避難する施設や場所である「指定緊急避難場所」は、災害の種類(地震・洪水・津波など)によって異なる場所が指定されている場合があります。住んでいる自治体の防災ガイドラインをよく読み、それぞれの事態に応じた最寄りの避難場所を確認しておきましょう。

【現在の自治体情報の確認が必要】

江東区・江戸川区・足立区・市川市の見解は…

▶全市区共通

  • 管轄内すべての避難所で、飼い主とペットが別空間で過ごす「同行避難」を認めている。
  • ペットの居場所は各避難所の状況により異なる(昇降口・室内外・テント内など)が、原則として人と同じ居室への入室は不可である。
  • トイレ掃除や給餌時に逃げ出さないよう、犬も猫もリードを付けること。

 

▶江東区

  • 台風や水害など事前に被害が予測される場合は、予め各自でペットの避難場所を確保しておくことが原則。

苅谷動物病院の待合室のモニターでは江東区保健所提供の【備えよう!ペットの防災】を配信しています。また江東区公式チャンネルでも動画配信しています。

知っておきたい!「同行避難」と「同伴避難」の違い

2019年、関東を襲った強烈な台風では河川が氾濫し、水害からの避難を余儀なくされた方が多くいらっしゃいました。そんな状況の中で話題となったのが、“ペットと一緒に避難することへの是非”でした。

そもそも「同行避難」とは、災害の発生時にペットを連れて指定の緊急避難場所等まで避難することを指します。避難所等において飼い主とペットが同室(または同施設)で一緒に暮らすことを指す「同伴避難」とは異なります。

環境省をはじめ多くの自治体では「同行避難」を推奨していますが、「同伴避難」を認めている避難所は稀です。また、「同行避難」を受け入れている避難所でも、キャリーバッグの置き場所などの受け入れルールは決められています。動物が苦手な方やアレルギーの人もいるので、飼い主は必ずルールに従い、ペットの衛生面・健康管理に配慮する必要があります。

 

ペット防災情報 問い合わせ先(江東区・江戸川区・足立区・市川市)

災害時には、電話・インターネット回線がつながらない恐れがあります。
避難場所でのペットとの過ごし方など、疑問や質問は平時に確認しておきましょう。

江東区役所 防災課 防災計画係 防災センター
☎03-3647-9584
江東区役所ホームページ「ペットの防災」

江戸川区役所 江戸川保健所 生活衛生課 動物管理係
☎03-3658-3177
江戸川区役所ホームページ「ペットの災害対策」

足立区役所 危機管理部 総合防災対策室 災害対策課
☎03-3880-5836
足立区役所ホームページ「災害時のペットとの避難について」

市川市役所 環境部 自然環境課 動物愛護グループ
☎047-712-6309
市川市役所ホームページ「災害時におけるペット対策」

まとめ

災害はいつ身近で起こるかわかりません。いざという非常時に、少しでもペットにつらい思いをさせないために、日頃から準備しておくことが非常に大切です。ここで紹介した要点を参考に、ぜひ今一度身の回りの状況をチェックしてみてください。物理的な備えだけでなく、ペットとどれだけコミュニケーションがとれるかも重要となります。家族以外の人が苦手、人に触られるのを好まない、恐がりなどの性格のペットの場合でも、少しずつ練習することで改善することも多いです。当院には動物行動学を学んだ獣医師や犬のしつけ教室を担当する動物看護師、専門インストラクターが在籍しておりますので、そのような点でお悩みがありましたらいつでもご相談ください。