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シニア動物の心の変化

※こちらの記事は前記事犬・猫のしぐさと気持ちの関係 より良いコミュニケーションのためのヒントの続編となります。より理解を深めていただくために、ぜひ併せてお読みください。

犬も猫も7歳を過ぎた頃からシニア期に入り、老いの兆候が見られるようになります。加齢は身体の機能や感覚ばかりでなく、心にも影響を与えます。今回は、シニア期に起こる動物の変化について心の側面を見てみましょう。

加齢によって現れる心の変化

強まる不安傾向

シニア期になると不安傾向が強まり、いろいろな刺激や状況に対して恐怖や不安を感じやすくなります。これには二つの理由が考えられます。一つは、心を司る脳の情報処理機能が低下するためです。これにより、若い頃と比較して、同じ刺激を受けた時でも不快情動(恐怖や怒り)が生まれやすくなります。もう一つは、身体的な問題や感覚の低下に起因する二次的な変化です。病気による痛みや不快感があったり、視覚や聴覚機能が衰えたりすると、心理的にも余裕がなくなります。このような変化は、バックグラウンドストレスとして蓄積され、刺激に対する反応を過敏にします。

こんな行動があったら不安感が強まっているかも?

不安な時、動物は安心できる場所を探します。一般的には、家族の近くにいることで安心感を得られるため、後を付いて回ったり、撫でられることや抱っこなどの交流を要求したりすることが増えます。猫の場合は、自分のお気に入りの場所、暗いところや狭い場所にいる時間が増えることもあります。また、攻撃や威嚇といった行動は、恐怖に関連していることが多いものです。このような行動が頻繁になったり激しくなったというような場合も不安感が強まっている場合があります。

シニア期=心の風船を持ち替える時期

それぞれの動物が持つストレス耐性(心のキャパシティ)を風船に例えてみましょう!シニア期に入ると、徐々に小さな風船に持ち替えていく動物が多いようです。大きな風船を持っている動物がいろいろな刺激や状況に対して動じにくく寛容な態度であるのに対し、小さな風船を持っている動物はストレス耐性が低いため、不快情動を示しやすいという特徴があります。

うちのコって認知症?

シニア期に多いのが「うちのコ、認知症でしょうか?」という質問です。犬や猫の認知症(高齢性認知機能不全症候群)は認知機能の低下を伴い、以下のような症状を示します。認知症は、進行性の疾患であり根本的な治療はできないので、ご家族様が不安になられるのはごもっともだと思います。しかし、以下のような症状があっても、実際には認知症ではないことも多くあります。また、認知機能低下が確認されても、多くの場合、症状や悪化要因の一部を緩和させたり、ご家族様の負担を軽減したりすることは可能です。個々の症状や家庭環境を把握し、適切な診断と対策をすることが重要です。認知症かな?と思ったら、ぜひ早めに獣医師にご相談ください。

【認知症の症状】
  1. 見当識障害
    ■ 物を避けずにぶつかる
    ■ 部屋の角や家具などに囲まれた狭いところから後退や方向転換ができず動きが取れなくなる
    ■ 慣れた場所がわからなくなる

  1. 社会的交流の変化
    ■ 家族や同居動物との関わり方が変わる
    ■ 家族の帰宅時に喜ばなくなる
    ■ 挨拶をしなくなる

  1. 睡眠サイクルの変化
    ■ 昼夜逆転
    ■ 日中寝てばかりで夜の活動が増える(夜鳴き)

  1. 学習した行動(排泄・トレーニング)の変化
    ■ トイレ以外の場所で排泄する
    ■ 指示語などのルールに従うことができなくなる

  1. 活動性の変化
    ■ 刺激に対する反応が減る
    ■ 探索行動が減る
    ■ 無目的にウロウロしたり円を描くように歩いたりする
    ■ 攻撃行動が増える

  1. 不安
    ■ 家族が近くにいないと吠える・鳴く
    ■ 以前は大丈夫だった人・物・状況を怖がる

犬の認知症は、正常な脳の老化が過度に進んだ状態と考えられています。老化を進行させないような健康管理、食生活、環境づくり、家族との交流など、日頃のケアがとても重要です。

よくあるシニア動物の行動相談

シニア期になって問題行動が生じることは多いものです。相談の多い二つの行動についてご紹介します。認知症の症状として見られる行動でも、それ以外のさまざまな理由で示されることがあります。

1. 夜鳴き

シニア期に限らず、夜間に吠えたり鳴いたりする場合は、家族の安眠を妨害するばかりか、ご近所トラブルの原因になりやすく、深刻な問題となります。夜鳴きは以下のような理由でも起こります。

■ どこかが痛い
■ どこかが気持ち悪い(不快)
■ 怖い、不安
■ 家族を呼ぶため
■ 物音や人の気配に対して(恐怖、縄張りを守る)
■ 分離不安
■ 何かが欲しい、要求時(喉が乾いた、お腹が空いた、動きたい、排泄したい、暇、など)
■ 高齢性認知機能不全症候群

▷シニア期の特徴

シニア期の夜鳴きは、認知症の症状として無目的に起こると思われがちですが、多くは原因があります。高齢になればなるほど身体的な不調が生じやすく、体力の低下から動物自身が望む行動を取れないことが多くあります。また、前述のように不安傾向が強くなることから、恐怖や警戒も増します。何らかの要求を伝えるため、助けを求めて吠える・鳴くことも少なくありません。

▷対策

日中の刺激や活動を増やし、犬や猫の社会的欲求(撫でる、一緒に遊ぶ、トレーニングをする、散歩をする、においチェックの機会を与える)、生理的欲求(排泄を促す、飲水飲食の補助)を充分満たしてあげましょう。快適で安心できる安全な寝場所を用意することも大切です。それでも解決しない場合は、原因を探り、それを改善する作業が必要です。夜間に生じるすべての要求に応えようとすることで、ご家族様が疲弊してしまうことも少なくありません。お困りの場合は獣医師にご相談ください

2.  トイレの失敗

排泄の失敗は、愛犬や愛猫のことが心配になるだけでなく、片付けにも手間を取られ、ご家族様にとって負担が大きい問題の一つです。トイレの失敗は以下のような理由で起こります。

排泄の失敗は、愛犬や愛猫のことが心配になるだけでなく、片付けにも手間を取られ、ご家族様にとって負担が大きい問題の一つです。トイレの失敗は以下のような理由で起こります。

●排尿回数の増加、排泄時の不快感
●トイレに行くのが大変(遠い、アクセスしにくいなど)●トイレに入りにくい、使いにくい(狭い、安定性が悪いなど)
●トイレを安心して利用できない(音や他の動物が怖いなど)
●トイレが汚い(回数、量が増え掃除が間に合わない)
●トイレのトレーニングが充分できていない(犬の場合)
●トイレ以外の場所が好き
●マーキング
●高齢性認知機能不全症候群

▷シニア期の特徴

シニア期の排泄の失敗の多くには身体的な変化が関連しています。泌尿器系の病気などの影響により排尿回数が増え、さらに体力が衰えることで以前は問題なく使用できていたトイレに間に合わなくなったり、不便が生じたりして失敗してしまうのです。また、不安傾向が関連していることも少なくありません。一旦トイレ以外の場所で排泄するようになってしまったら、原因を解決しても、それが続いてしまう場合もあります。

▷対策

まずは定期的な身体検査をおすすめします。身体的な問題や変化を早期に確認し、心身の状態に合わせてトイレの質や場所を変更していくことで、多くの場合、予防や改善が可能です。一方、認知症による場合は、再びトイレの学習をさせることは困難であるため、トイレシーツやマナーベルト、オムツなどを上手に利用して管理をしていく必要があります。

愛犬・愛猫の変化に寄り添いましょう

「これまで穏やかに生活してきたのに…」。長年に渡って信頼関係を築き、幸せに生活してきたご家族様にとって、シニア期の愛犬・愛猫の変化は心配であるとともに、残念な出来事であるかもしれません。愛犬・愛猫は皆様にとって昔と変わらず可愛く、愛情一杯の家族であるため気付きにくいのですが、私たちの何倍も早く年をとり、身体や心には変化が生じています。心身の状態を把握し、それに合った生活や楽しみを見つけていただければと願っています。シニア期は、不安や負担が増える時期でもあります。当院では、ご家族様に寄り添い、各ご家庭にあった最適な支援を行って参ります。シニア動物のためのデイケア(市川総合病院)なども承っておりますので、お気軽にご相談ください。

当院では犬のしつけ教室を開催しています。シニア期に入った愛犬とのコミュニケーションにお悩みのご家族様、シニア期の愛犬との絆をより深めたいご家族様には特におすすめです。

また、市川総合病院では行動診療科を開設しており、シニア期の愛犬・愛猫の行動相談を承ります。受診をご希望の際は、かかりつけ病院の獣医師にお問い合わせください。手順を踏んで、行動診療科のご案内いたします。

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