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犬・猫のしぐさと気持ちの関係 より良いコミュニケーションのためのヒント

言葉が通じない動物たちは、しぐさや行動で私たちに気持ちを伝えています。今回は、当院行動診療科の獣医師監修のもと、動物たちの気持ちに寄り添い、より良いコミュニケーションを築くためのヒントをお伝えします。

動物の気持ちは行動に表れる!? 脳で生まれる気持ちと行動

人を含めた動物は、何らかの刺激や出来事に遭遇した時、それが自分にとって“危険で有害なもの”なのか“欲求を満たしてくれる有用なもの”なのかを短時間で評価しています。その際、大脳辺縁系では、前者の場合には不快情動(恐怖や怒り)が、後者の場合には快情動(喜び)が発生し、それに応じた行動や生理学的な変化(震えや表情)が引き起こされます。これに対し、より複雑な認知を司る大脳新皮質は、その場の状況を分析し判断することで、咄嗟に生じた情動をコントロールする役割を担っています。つまり、過剰な行動や反応をとることなく、論理的で理性的な態度に導くのが大脳新皮質の役割なのです。

脳の構造

脳の基本的な構造は、人も犬・猫も同じです。

  1. 前頭前野:大脳新皮質の中でも、特に情動の制御を司る。
  2. 大脳新皮質:高度な認知・分析・判断などを司る。進化的に新しい部分。
  3. 大脳辺縁系ー視床:情動や本能的な行動を司る。
  4. 脳幹:生命維持活動を司る。進化的に古い部分。

動物は人よりも素直⁉

人と犬・猫の脳を比較すると、大脳辺縁系の発達には大差がない一方、前頭前野に関しては人が飛び抜けて発達しています。つまり犬・猫は人と比べ、理性的な行動をとるためのコントロールが弱く、情動どおりの過剰な反応をとりがちであることがわかります。しかし、別の言い方をすれば、人と違い、犬・猫は状況や相手に応じて忖度したり嘘をついたりせず、素直に心模様を表現する存在だとも言えるのです。

■前頭前野が大脳に占める割合

猫:3.5%程度
犬:7%
人:30%

例えば、怒られた時、人間は反省したり、相手に忖度した行動をとることができます。しかし、動物は言葉の意味や状況を深く理解することはできません。一見、反省しているように見えても、人の大声や興奮した様子に、恐怖や怯えを感じているだけかもしれません。

動物にも個性が! 心のキャパシティ(容量)には個体差がある

さまざまな刺激に対して恐れを抱きやすい動物もいれば、動じにくく寛容な態度を示す動物もいます。このような反応の違いは、その動物が持つ【ストレス耐性=心のキャパシティ】の差にあります。

刺激や状況に対して快情動が生じやすい動物

ストレス耐性が高い

心のキャパシティが大きい

刺激や状況に対して不快情動が生じやすい動物

ストレス耐性が低い

心のキャパシティが小さい

動物それぞれのストレス耐性は以下の要因が影響しています。

  1. 遺伝

親動物から引き継いだ個性は無視できない大きな要因です。親と子の風船の大きさは、比例しやすいと言えます。

  1. 胎児期、子犬・子猫期の経験

胎児期に親動物がストレスを多く受けたり、子犬・子猫期に親動物から適切なケアを受けられないことがあったりすると、脳の発達に影響が及び、ストレスへの反応が下手になってしまう、つまり風船が小さくなってしまうことがわかっています。

風船は、子犬・子猫の時期に楽しくさまざまな経験を積ませることで、大きくすることができます。これを社会化と言います。当院では、社会化のためのトレーニング・プログラムをご用意しています。子犬・子猫を育てている方、または家族に迎える予定がある方は、ぜひこの貴重な時期を逃さないよう、プログラムにご参加ください!(※ご興味のある方は病院スタッフまでお問い合わせください)

社会化とは?

人間社会でともに楽しく暮らすために、人との関係、または犬や猫などの動物の間で必要な“社会性”や“規範”を身につけることを言います。“社会性”や“規範”は生まれつき備わっているわけではなく、学習により後天的に得られるものであるため、飼い主が社会化の機会を作ってあげることがとても重要です。

犬では生後3~16週齢頃、猫では生後3~12週頃が、さまざまなことに馴れるのに適した柔軟な時期で「社会化期」といわれています。子犬・子猫を家族に迎えたら、早速、社会化を促進させてあげましょう。

 ちなみに、社会化期を過ぎた成犬も時間をかけてじっくりと楽しい経験を積み重ねることで、社会性を身につけることは可能です。ただし、子犬や子猫の場合より数倍の時間がかかるので、ぜひこの大事な「社会化期」を逃さないようにしてください!

我が家の愛犬・愛猫の風船は? 快適に暮らしてもらうためのヒント

Point1:風船の大きさを知り、見合った経験をさせましょう

以下に対する愛犬・愛猫の反応を観察してみましょう。あらゆる刺激に対して、“高頻度に激しく”怖がる場合は風船が小さいと言えます。

・ 社会的な状況(見知らぬ人や動物に出会った時)

・ 見知らぬものや音(雷や大きな音、初めて見るものや動き)

・ いつもと違う状況(来院、旅行、留守番、新奇環境)

愛犬・愛猫が持っているのが小さい風船だった場合、ご家族が良かれと思ってさせる経験(他動物との交流など)も、大きな負担・恐怖になっている可能性があります。だからと言ってすぐに大きな風船に取り替えることはできないので、まずは風船の大きさを個性として受け入れた上で、愛犬・愛猫のストレスにならないペースを見極め、できることを褒めて増やしながらゆっくり自信を養ってあげましょう。

風船の概ねの大きさは子犬・子猫期に決まります。その後は急な変化は望めませんが、それぞれに合わせたペースで経験を重ね、風船が膨らんだ状態を保つことで、生涯を通じて少しずつ大きくすることは可能です。

Point2:風船をいつも膨らませておきましょう!

 大きな風船を持っていても、しぼんでいては台なしです。【風船が膨らんだ状態=幸せな状態】を保つためには、適切で快適な環境で暮らせることが必要です。「犬の環境エンリッチメント」「猫の5つの柱」というガイドラインを参考に、愛犬・愛猫の生活環境を今一度見直してみましょう。

犬の環境エンリッチメント

  • 空間エンリッチメント
    動物種本来の正常な行動がとれるように、充分なスペースと安心できるプライベート空間を与える。
  • 採食エンリッチメント
    本来の摂食行動に近づくよう、知育玩具などを用い捕食欲求を満たす。
  • 感覚エンリッチメント
    散歩や遊びなどを通して、視覚・触覚・嗅覚などに刺激を与える。
  • 社会的エンリッチメント
    人や他の動物との関わりの機会を設ける。
  • 認知エンリッチメント
    知育玩具やトレーニングに挑戦し、考える機会を与える。

猫の5つの柱

  • 第一の柱
    安全で安心できる場所を用意し、上下運動ができるように家具の配置を工夫する。
  • 第二の柱
    トイレ・フード・水・爪研ぎ・オモチャ・寝床などは複数用意する。トイレは適切な形や大きさのものを設置し、常に清潔にしておく。
  • 第三の柱
    知育玩具や猫じゃらしなどを用いて、捕食欲求を満足させる機会を与える。
  • 第四の柱
    猫の好むスタイルで交流し、人と猫の適切な社会的関係を構築する。
  • 第五の柱
    猫の嗅覚の重要性を尊重した環境を用意する。

「犬の環境エンリッチメント」と「猫の5つの柱」のより詳細な情報は、こちらでご覧いただけます。

あなたは分かる? 愛犬・愛猫が伝えたい本当の気持ち

犬や猫の情動(気持ち)は行動に表れます。皆さんは、動物のボディランゲージを正しく理解できているでしょうか?次のクイズに挑戦して、動物の気持ちが表れるポイントをチェックしてみましょう!

Q1. 不安を感じているのは、どちらの犬でしょうか?

答え:1番

‟ヘソ天“は無防備な体勢であり、一般的にご家族に対しては、心を許し安心している時に行います。一方で、自分が怖いと思う相手に対して、敵意がないことを示すために行う場合もあります。1番は尾が巻かれ後肢の間に入っており、身体が丸まっています。また、耳を後ろに引いており、表情も固いです。これらの仕草は、恐怖・緊張・不安を表しており、「ちょっと怖いな。僕は敵じゃないから、仲良くしようよ」というメッセージが伝わってきます。

Q2. 今にも攻撃してきそうな2頭ですが、本当は怖がっているのはどちらでしょうか?

答え:2番

 2頭の“耳の位置”と“口角の引き具合”に注目してみましょう。犬は恐怖を感じると、耳が後ろに引かれ、口角も後ろに引き気味になります。2番の犬は、姿勢を低くしていることからも弱気な様子が見てとれ、「お前、こっちに来るなって言ってるじゃねーか!」と言っているようですね。一方、1番は耳がピンと立っており、口は口角を前に押し出すように開いていることから、怒って積極的に威嚇している様子がうかがえます。

犬が恐怖・不安を感じている時には、表情の他に以下のようなボディランゲージを示すことがあります。

  • 口の周りを舐める 
  • あくびをする
  • 目をそらす    
  • 反応が過敏になる
  • 動きがゆっくりになる
  • 落ち着かなくなる  など

Q3. この中で怖がっているのは、どの猫でしょうか?

答え:1番と3番

猫の緊張・恐怖・攻撃性は、顔・しっぽ・姿勢などに表れます。1番は身体を大きく見せようと、尾と毛を立たせ威嚇をしているものの、耳は後ろに引いており、開いた瞳孔からは恐怖が感じられます。「こっ、怖!こっちに来るな!追い込まれたら、やるっきゃない…」と恐怖と攻撃の間で葛藤している様子がうかがえます。3番は恐怖心から自分をなるべく小さく見せようと尾を身体に巻き付けています。耳も頭にくっつけるように平たく寝かしていますね。「緊張するな~。怖いから近づかないでよ」という気持ちの表れですね。一方、2番は身体や顔に緊張感がなく穏やかな表情です。尾も上がっており、「こんにちは~♪何かいいことある?」とフレンドリーに挨拶をしてくれているようです。

コロナ禍で増えた!? 動物たちの問題行動

 新型コロナウイルスの感染拡大により、人々のライフスタイルが大きく様変わりしたなか、家族の行動パターンの変化は、愛犬・愛猫たちにも大きな影響を及ぼしました。コロナ禍で増えた動物たちの問題行動についてご紹介します。

■分離不安

分離不安とは愛着を感じている相手と離れた際に起こるストレス行動で、以下のような不安行動を示します。

家族が外出の準備を始めた時や留守番時に…

  • 落ち着かなくなる
  • 過度に鳴く、吠える
  • トイレ以外の場所で排泄する
  • 破壊行動をする
  • 食欲がなくなる
  • 行ったり来たりする
  • よだれをたらす

特に、性格が憶病なペットやシニアの動物(風船が小さいまたはしぼんでいる状態の動物)が分離不安を起こしやすいと言われています(シニア期になると小さな風船に持ち替える動物が多いです)。一般的には、犬に起こりますが、猫も例外ではありません。

▷コロナ禍による影響

緊急事態宣言下では外出自粛やテレワークをするようになったため、家での楽しみや癒しを求めて長時間・近い距離で愛犬・愛猫と過ごす家族が増えました。コロナ流行前より濃密なコミュニケーションを楽しんだ犬や猫たちは、安心感や快適さを実感し、以前より強い愛着を家族に感じたことでしょう。しかし、宣言解除に伴い再び家族の外出機会が増えると、ライフスタイルの急激な変化に混乱した動物たちは、より強い不安を感じ上のような行動をとるようになったと考えられます。

◎対策

愛犬・愛猫と一緒に過ごす時間には、できるだけベタベタせずに、物理的な距離をとるように心がけましょう。家事や仕事はあえて違う部屋で行い、離れる時間を定期的に持つことをおすすめします。但し、一緒に遊ぶ時間や散歩の時間は減らさないように気をつけてください。愛犬・愛猫が既に不安行動を呈している、仕事や学校の都合で外出機会が急増しそう、といった場合は行動診療科の獣医師に相談されることをおすすめします。

■家族への攻撃行動

ご家族に対するペットの攻撃行動は、家族が行った何らかの対応に対し、不快情動が生じた場合に示されます。一般的には「怖い」「嫌なことをされたくない」「ものや食べ物を取られたくない」といった防御的な気持ちが引き金となりますが、ストレス耐性が低い状態、つまり心の風船が小さく、その風船がしぼんだ状態になっていると、簡単に高頻度に引き金が引かれてしまいます。

▷コロナ禍による影響

愛犬・愛猫との交流時間の増加により、家族がペットの不快情動を引き起こすような対応をとってしまう機会もまた増加しています。普段、犬は家族のスケジュールに合わせて生活し、猫は家族の居場所と自身が安心できる大事な場所がバッティングしないよう、時間帯によって自身が通ったり使ったりする場所を変えるなどの工夫をしています。しかし、コロナ禍では、在宅ワークや時差出勤などにより家族の在宅時間や生活パターンが変わってしまったため、いつものリズムで生活できなくなった動物たちはストレスを感じたと思われます。ストレスは風船をしぼませてしまう原因となります。風船がしぼんだ動物は、それまでは平気だった家族の対応にも不快情動を生じやすくなるので、攻撃行動を起こしやすくなったのだと考えられます。

◎対策

犬の場合:家族の生活リズムが変わった場合も、散歩・食事・遊び時間などの愛犬が楽しみにしているイベントは、できるだけ定期的に与えるように心がけてください。

猫の場合:今一度、猫の生活環境を見直してみましょう。寝床・食事の場所・水飲み場・トイレなどは、複数カ所に設置してください。人が集まる場所や通路になるところは猫が好まない場合があるので、愛猫が安らげる場所に居場所を作ってあげましょう。

深刻な攻撃行動が見られる場合は、迷わず行動診療科を受診してください!

激しいグルーミング

犬や猫はグルーミングに比較的長い時間を費やします。しかし、心理的にストレスとなる出来事に遭遇したりストレス耐性が弱まったりすると、身体を舐める行動が過度になり、脱毛や皮膚炎を引き起こす場合があります。グルーミング以外にも、心理的ストレスにより発生している可能性がある行動には次のようなものがあります。

  • 尾を追いかけて回転する(犬・猫)
  • 光を追う(犬・猫)
  • フライバイト※(犬)
  • 布を吸う、食べる(猫)

※ハエがいるかのように口をパクパクして捕まえようとする行動

▷コロナ禍による影響

攻撃行動で説明したように、コロナ禍では動物たちが大きなストレスを抱え、風船がしぼみがちです。一方で、家族との交流が増えたことで心が満たされ、症状が緩和されたケースもあります。しかし、この場合も、家族が元の忙しい生活に戻る際には注意が必要です。

◎対策

攻撃行動の対策を参考にしてください。皮膚炎や脱毛がある場合には、身体的な疾患との鑑別をするため、まずは獣医師による診療を受ける必要があります。身体的な疾患が無いと確認した後、行動診療科の診察をご案内します。

 

※上記の問題行動はアフターコロナにありがちな問題行動をまとめたものです。特定のケースについて引用しているものではありません。

まとめ

私たちも動物たちも、未曾有の事態への対応に疲れ、心の風船がしぼんでしまいがちな時間が長く続きました。でも、そんな時だからこそ、お互いの存在が癒しとなり、絆が深まったとも言えます。この機会に、ぜひ愛犬・愛猫との関係を見直し、さらに良い関係を築いていただきたいと願っています。当院の行動診療科では、各ご家庭に最適な支援を行っておりますので、問題行動や日常生活でのどんな不安もお気軽にご相談ください。動物たちがストレスなく快適に過ごせるように注意深く観察しながら、その時々に合ったフォローをしてあげたいですね!

当院では犬のしつけ教室を開催しています。日頃から愛犬とのコミュニケーションにお悩みのご家族様、愛犬との絆をより深めたいご家族様には特におすすめです。

また、愛犬や愛猫の問題行動にお困りのご家族様向けに市川総合病院にて行動診療科を開設しております。受診をご希望の際は、かかりつけ病院の獣医師にお問い合わせください。手順を踏んで、行動診療科のご案内いたします。

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